サイト内検索

検索結果 合計:50件 表示位置:1 - 20

2.

植物由来cytisinicline、禁煙効果を第III相試験で検証/JAMA

 行動支援との併用によるcytisiniclineの6週間および12週間投与は、いずれも禁煙効果と優れた忍容性を示し、ニコチン依存症治療の新たな選択肢となる。米国・ハーバード大学医学大学院のNancy A. Rigotti氏らが米国内17施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ORCA-2試験」の結果を報告した。cytisinicline(cytisine)は植物由来のアルカロイドで、バレニクリンと同様、ニコチン依存を媒介するα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体に選択的に結合する。米国では未承認だが、欧州の一部の国では禁煙補助薬として使用されている。しかし、従来の投与レジメンと治療期間は最適ではない可能性があった。JAMA誌2023年7月11日号掲載の報告。cytisinicline 6週間投与と12週間投与の有効性をプラセボと比較検証 研究グループは2020年10月~2021年6月に、現在1日10本以上タバコを吸っており、呼気一酸化炭素(CO)濃度が10ppm以上で、禁煙を希望する18歳以上の成人810例を、cytisinicline 3mgを1日3回12週間投与(12週間投与群、270例)、cytisinicline 3mgを1日3回6週間投与後プラセボ1日3回6週間投与(6週間投与群、269例)、プラセボ1日3回12週間投与(プラセボ群、271例)の3群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。全例が無作為化から12週目までにカウンセラーによる10分間の禁煙行動支援を受け(最大15回)、16週、20週および24週時には短いセッションが行われた。 主要アウトカムは、投与期間の最終4週間における生化学的に確認された禁煙継続(すなわち、6週間投与では3~6週目、12週間投与では9~12週目)。副次アウトカムは、投与期間の最終4週間から24週目まで(すなわち、6週間投与では3~24週目、12週間投与では9~24週目)の禁煙継続とした。 2週目から12週目までの禁煙継続は、毎週評価した前回受診時からの禁煙の自己申告と呼気CO濃度10ppm未満で確認し、16週、20週および24週目の禁煙は、判定基準のRussell Standard(前回の受診時から5本以上喫煙していない)を用いて自己申告で確認した。禁煙継続率はcytisinicline群でプラセボ群の約3~6倍 無作為化された810例(平均年齢52.5歳、女性54.6%、1日平均喫煙数19.4本)のうち、618例(76.3%)が試験を完遂した。 禁煙継続率は、cytisinicline 6週間投与群とプラセボ群との比較では、3~6週目で25.3% vs.4.4%(オッズ比[OR]:8.0、95%信頼区間[CI]:3.9~16.3、p<0.001)、3~24週目で8.9% vs.2.6%(3.7、1.5~10.2、p=0.002)であった。また、cytisinicline 12週間投与群とプラセボ群との比較では、9~12週目で32.6% vs.7.0%(OR:6.3、95%CI:3.7~11.6、p<0.001)、9~24週目で21.1% vs.4.8%(5.3、2.8~11.1、p<0.001)であった。 主な有害事象は悪心、頭痛、異常な夢、不眠症であったが(各群10%未満)、そのうち異常な夢と不眠症のみプラセボ群よりcytisinicline群で発現率が高かった。 有害事象による投与中止は、cytisinicline群で539例中16例(2.9%)(6週間投与群:2.2%、12週間投与群:3.7%)、プラセボ群で270例中4例(1.5%)であった。試験薬に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 なお、著者は研究の限界として、参加者が主に白人であったこと、有害事象の検証が短期間であったこと、本試験における行動支援の強度等は一般的な医療現場で提供できるものを超えている可能性があることなどを挙げている。

3.

第109回 高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、「デジタル薬」が効く人・効かない人の微妙な線引き(前編)

官民こぞってデジタル、デジタルこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。世の中、デジタル流行りです。デジタル庁発足の前後くらいから、官民こぞってデジタル、デジタル(あるいはDX)と言い始めた印象があります。デジタル化はまるで世の中の不便や非効率をすべて解決できる“魔法の薬”のように(とくにデジタルに弱い人々=政治家などから)捉えられているようです。スマートフォンやインターネットの世界の相当な部分をGAFAにやられてしまってから、デジタル化推進に力を入れ出す国もどうかと思いますが、さすがにこの流れに乗っておかないとまずい、と国も企業も考えているのでしょう。医療の世界も例外ではありません。国だけではなくコンサルタントやICT関連メーカーなどが、さかんに「医療DX推進」を喧伝しています。自民党の社会保障制度調査会・デジタル社会椎進本部「健康・医療情報システム推進合同プロジェクトチーム」は5月13日、 全国医療情報プラットフォームの創設、 電子カルデ情報の標準化、 診療報酬改定DXを柱とする提言を取りまとめました。これらを椎進する方針を「医療DX令和ビジョン2030」と名付け、首相を本部長とする「医療DX椎進本部(仮称)」を設置するよう求めたとのことです。「電子的保健医療情報活用加算」を新設で患者負担増えるしかし、これまでの状況を見ても、その前途は多難としか言いようがありません。デジタル化の一環として、国は「マイナ保険証」を推進しようとしていますが、普及を目的として今年4月の診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」を新設したところ、この保険証をわざわざつくった患者の自己負担が増える事態となり反発を招いています。医療機関の設備投資や手間を考えての報酬設定でしたが、肝心の患者は二の次にされた格好です。マイナンバーカードを取得し、保険証利用の登録もした、という奇特な人の医療費の自己負担を逆に増やすとは……。気が遠くなるようなマイナンバーカード取得の手続きの面倒さを思うと、考えられない“仕打ち”です。4月13日に成立した改正薬機等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって、電子処方箋システムの整備も始まりますが、こちらも今から相当な混乱が予想されます。おそらく政治家のほとんどは自分でマイナーバーカードの取得や、マイナポイントの登録申請などやったことないのでしょう。現場の煩雑さ、大変さも知らないで、安易なポンチ絵で説明される政策の普及・定着が覚束ないのは当然です。デジタル化以前の問題と言えます。さて今回は、デジタルつながりということで、最近流行りのスマホアプリなどで病気の治療を行う「デジタル薬」について書いてみたいと思います。「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」薬事承認を取得連休直前の4月27日、株式会社CureAppはメディア向けのオンラインセミナーで、高血圧治療用の「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の製造販売承認(薬事承認)を4月26日に取得したことを明らかにしました。高血圧治療の領域で医師が処方する「デジタル薬」の薬事承認取得は世界初とのことです。同社は2022年中の保険適用と上市を目指すとしています。「デジタル薬」とは、スマホアプリやゲーム、デジタル機器など、ソフトウェアを活用して治療を行うデジタル療法のことです。日本では2014年の薬機法改正で、医療用ソフトウェアが薬事承認規制の対象となったことを契機として開発が本格化しました。日本においては販売に当たって薬事承認が必要となるものは「プログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD(サムディ)」、それ以外は「Non-Software as a Medical Device:Non-SaMD (ノンサムディ)」に分類されます。薬事承認が必要なSaMDのうち、治療用アプリなど、疾患の治療を目的としたものは「デジタル治療(Digital Therapeutics:DTx)」と呼ばれており、このDTxがいわゆるデジタル薬です(SaMDにはこの他に診断機器もあります)。ということで、CureAppの治療用アプリ「高血圧症治療補助プログラム」は、正式には「SaMDの中のDTx」という分類になります。ニコチン依存症の治療用アプリに次ぐ国内2番目のDTx国内で初めて実用化されたDTxは皆さんご存知のCureAppのニコチン依存症の治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」です。2020年12月に保険適用されて販売が開始されました。ただ、同アプリに併用することになっている禁煙補助薬のバレニクリン(国内商品名:チャンピックス)の一部製品から、発がん性のリスクを高める可能性があるとされるN-ニトロソバレニクリンが社内基準を超えて検出されたため、2021年6月から出荷停止となり、同アプリの使用は難しくなっているようです(ファイザーは2021年11月に「出荷再開は早くても2022年後半以降」と発表)。これに続く国内2番目のDTxが、今回薬事承認を取得した高血圧治療用の「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」というわけです。生活習慣の行動変容を促し、正しい生活習慣の獲得をサポート同アプリは、スマートフォンを介して患者に生活習慣の行動変容を促し、正しい生活習慣の獲得をサポートすることで、継続的な生活習慣の修正を実現、減塩や減量などを通じて血圧の低下という治療効果を得る、とされています。具体的には、医師が患者に同アプリにログインするための「処方コード」を提供。患者がアプリにログインすると、血圧計と連動させて血圧を記録したり、生活習慣を質問形式やアプリ内のキャラクターとの会話などでモニタリングしたりなど、さまざまなサービスを利用できるようになります。そして、個別化された治療ガイダンス(患者が入力した情報に応じた食事、運動、睡眠、飲酒などに関する知識や行動改善を働きかける情報)をスマートフォンを介して直接患者に提供することで、行動変容を促す仕組みです。処方した医師の側も、医師用アプリを使うことで患者の日々の生活習慣の修正状況が確認できるため、診療の効率化にもつながるとされています。主要評価項目はABPMによる24時間の収縮期血圧今回の薬事承認は、360人程度の患者を対象とした臨床第III相試験の結果に某づくとしています。欧州心臓病学会で発表されたデータや、PMDAで公開された添付文書1)等によれば、治験の対象者は20歳以上65歳未満の男女で本態性高血圧症の患者。ABPM(24時間自由行動下血圧測定)による24時間収縮期血圧が130mmHg以上で、直近3ヵ月以上降圧薬治療を受けていないことが条件となっています。主要評価項目はABPMによる24時間のSBP(収縮期血圧)で、高血圧治療ガイドラインに準拠した生活習慣の修正に同アプリを併用した「介入群」と、同ガイドラインに準拠した生活習慣の修正を指導するだけの「対照群」を比較評価。介入群の方が有意な改善を示したとのことです。添付文書によれば、介入群の血圧はベースライン時と12週または中止時点の比較で144.3 ± 10.43mmHgが137.4 ± 11.58mmHgに下がり、変化量は-6.9 ± 10.70(n=178)。一方、対照群の血圧は144.9 ± 10.44mmHgが139.5 ± 12.31mmHgに下がり変化量は-4.7 ± 10.32(n=170)。群間差は-2.4[-4.5〜-0.3]となっています。なお、今回の薬事承認の了承に当たっては、「承認後1年経過するごとに、市販後の有効性に関する情報を収集し、有効性が維持されていることを医薬品医療機器総合機構(PMDA)宛てに報告すること」という条件が付けられています。DTxに対する素朴な疑問さて、「有意な改善」とは言うものの、血圧の変化量を見ると、劇的というほどではなく微妙な感じもします。この数字を見て、素朴な疑問が頭をもたげました。それは、こうしたスマホアプリに順応して素直に行動を変えられる人ならよいが、頑固でアプリのアドバイスになかなか従わない人に果たして効果があるのだろうか、ということです。おそらく臨床試験では、対照群も含めてアプリに順応し、アドバイスも受け入れ易い人を選んでいると思われます。それでこの成績だとしたら、本態性高血圧全体の患者で考えると、治療効果は相当低くなってしまうのではないでしょうか。こうした疑問をデジタル薬の開発に詳しい知人の記者にぶつけてみたところ、「そのとおり。行動変容を促すDTxは、アプリを使用するだけでなく、アプリの提案を基に患者自身が行動を起こす必要がある。通常の薬剤の“服用”よりもアドヒアランスのハードルがとても高く、臨床試験で目に見える効果を出すのが難しいと言われている」との答えでした。実際、調べてみると、DTxの臨床試験は、国内外でなかなか難しい状況にあるようです。「これからはDTxの時代だ!」「治療用アプリは普及期に入る」といった声も聞こえてきますが、国が進めようとしている医療DX同様、こちらの前途も洋々とは言えないようです。(この項続く)参考1)CureApp HT 高血圧治療補助アプリ/PMDA

4.

疑問点ばかりが浮かぶ研究(解説:野間重孝氏)

 ショックとは「生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果、重要臓器の血流が維持できなくなり、細胞の代謝障害や臓器障害が起こり、生命の危機に至る急性の症候群」と定義される。ショックの分類については、近年は循環障害の要因による新しい分類が用いられることが多く、次のように分類される。(1)循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock)   出血、脱水、腹膜炎、熱傷など(2)血液分布異常性ショック(distributive shock)   アナフィラキシー、脊髄損傷、敗血症など(3)心原性ショック(cardiogenic shock)   心筋梗塞、弁膜症、重症不整脈、心筋症、心筋炎など(4)心外閉塞・拘束性ショック(obstructive shock)   肺塞栓、心タンポナーデ、緊張性気胸など ここで注意すべきなのは、どの型のショックにおいても例外なく血圧の低下を伴うことで、実際臨床で最大の指標にされるのは血圧である。ちなみにショックの五大兆候とは、蒼白・虚脱・冷汗・脈拍触知不能・呼吸不全をいう。 心原性ショックについて言えば、血液を送り出せない場合だけではなく、心臓に戻ってきた血液を受け止めきれないために生じる場合も含んでいることに注意する必要がある。心原性ショックは心筋性(心筋梗塞、拡張型心筋症など)、機械性(大動脈弁狭窄症、心室瘤など)、不整脈性の3つに分類される。 ミルリノン(商品名:ミルリーラなど)はホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase:PDE)III阻害薬に分類される薬剤で、β受容体を介さずに細胞内cAMPをAMPに分解する酵素であるPDE IIIを抑制することによって細胞内cAMP濃度を高めると同時に血管平滑筋も弛緩させるため、inodilatorと呼ばれる。一般にドブタミンなどによる通常の治療に反応が不良であるケースに使用されるが、高度腎機能低下例(SCR≧3.0mg/dL)、重篤な頻脈性不整脈、カテコラミンを用いても血圧<90mmHgの症例には使用を避けるべきであるとされる。 本論文ではどのような患者に対して、どのような併用薬を用いて、どのような状態でドブタミンまたはミルリノンが使用されたかについての記載がまったくない。これは使用に当たって厳しい制限が課されている薬剤の研究発表としては、不適切と言わなければならないだろう。最大の問題点は血圧についての言及がないことで、では血圧が50mmHgを割っている患者に対して昇圧剤も使用せずにミルリノンを使用したのか、という単純な疑問に答えられていない。また、心室頻拍や心室細動に伴う心原性ショックに対してミルリノンが使用されることはないはずである。一連の研究について説明不足と言うべきだろう。 評者が一番の問題点、疑問点と考えるのはend pointの設定である。本研究においては院内死亡、蘇生された心停止、心移植、機械的循環補助の実施、非致死性の心筋梗塞、一過性脳虚血発作または脳梗塞、腎代替療法の開始が複合end pointとして設定されている。しかし本来、心原性ショックの治療成績は一にかかって、救命できたか・できなかったかであるはずである。重症不整脈によるショックの治療過程において、一時的に心停止を起こすことはとくに珍しいことではない。心移植や補助循環は方法であって結果ではない。また心移植というが、ショック状態の患者に対して心移植の適応はあるのだろうか(そもそも都合よくドナーがいるのかがまず問題であるが)。心筋梗塞は原因であって結果ではない。きわめてまれなことではあるが、蘇生の合併症として心筋梗塞が起こったとしても、それは合併症であって救命と直接関係した結果ではない。脳神経合併症は蘇生措置において生じた合併症であっても結果ではない。腎代替療法も補助的方法であって結果ではない。このように考えてみると、筆者らの設定したend pointはきわめて不適切であると言わざるを得ない。 現在の心原性ショックの治療の核は、原因の除去と左室を休ませることにあると言ってよい。たとえば、冠動脈閉塞が原因ならば可及的速やかに再開通を図るべきである。その際、血行動態が破綻しているならインペラ、ECMO、VADなど、あらゆる手段を用いることを躊躇するべきではない。また左室を休ませるという観点からもこれらの補助手段は大変に有効で、しかもできるだけ早期に実施することが望ましい。追加的補助として持続透析なども使用することをためらうべきではない。そこで強心薬を使用することは例外的な場合を除いてむしろ有害であり、それはドブタミンでもミルリノンでも同じではないかと考えられている。 論文という点から見ると、何点か問題があるだけでなく、シングルセンターの比較的少数の症例数であるにもかかわらずNEJM誌が掲載したことに驚いているというのが正直な感想である。見方を変えると、大変皮肉な言い方になるが、強心薬の時代は終わりを告げ、インペラ、VADなどのメカニカルサポートの時代が来ているのだと、とどめを刺すような印象を受けたことを申し添えたい。

5.

心原性ショックの薬物療法、ミルリノンvs.ドブタミン/NEJM

 心原性ショックの薬物療法について、ミルリノンとドブタミンは、院内死亡や蘇生された心停止、心臓移植や機械的循環補助といった複合アウトカムの発生率に有意差はないことが示された。各項目単独の発生率についても、両群で有意差は認められなかった。カナダ・オタワ大学のRebecca Mathew氏らが、192例を対象に行った無作為化比較試験の結果を発表した。心原性ショックは高い罹患率および死亡率と関連している。変力性サポートは、心原性ショックの中心的な薬物治療だが、現状では臨床における変力性薬剤の選択肢を示すエビデンスはほとんどないという。NEJM誌2021年8月5日号掲載の報告。二重盲検下で無作為化し、ミルリノンまたはドブタミンを投与 研究グループは、心原性ショックの患者を二重盲検下で無作為に2群に割り付け、一方にはミルリノンを、もう一方にはドブタミンを投与した。 主要アウトカムは、院内死亡、蘇生された心停止、心臓移植、機械的循環補助の実施、非致死的心筋梗塞、神経内科医の診断による一過性脳虚血発作または脳梗塞、腎代替療法の開始の複合アウトカムだった。 副次アウトカムは、主要複合アウトカムの各項目などだった。主要アウトカム発生率、両群ともに約半数で有意差なし 被験者総数は192例(各群96例)だった。主要アウトカム発生については、ミルリノン群47例(49%)、ドブタミン群52例(54%)で有意差はなかった(相対リスク[RR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.69~1.19、p=0.47)。 副次アウトカムの発生についても、院内死亡(ミルリノン群37%、ドブタミン群43%、RR:0.85、95%CI:0.60~1.21)、蘇生された心停止(7%、9%、ハザード比[HR]:0.78、95%CI:0.29~2.07)、機械的循環補助の実施(12%、15%、HR:0.78、95%CI:0.36~1.71)、腎代替療法の開始(22%、17%、HR:1.39、95%CI:0.73~2.67)と、群間の有意差はなかった。

6.

禁煙治療、cytisineはバレニクリンに対して非劣性示せず/JAMA

 禁煙を希望する毎日喫煙者の禁煙治療において、cytisineの25日間投与のバレニクリン84日間投与に対する非劣性は示されなかったとの試験結果が、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のRyan J. Courtney氏らによって報告された。cytisineは、プラセボやニコチン代替療法よりも有効であることが示されているが、これまで禁煙治療で最も有効とされるバレニクリンとの比較検討は行われていなかった。JAMA誌2021年7月6日号掲載の報告。オーストラリアの非盲検無作為化非劣性試験 本研究は、禁煙治療におけるcytisineのバレニクリンに対する非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化臨床試験であり、2017年11月~2019年5月の期間にオーストラリアの2つの州(ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州)で参加者の募集が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上で、禁煙を試みる意思のある毎日喫煙者であった。妊婦や授乳中の女性、7ヵ月以内に妊娠の予定のある女性は除外された。参加者は、cytisineまたはバレニクリンの投与を受ける群に、無作為に割り付けられた。試験薬は参加者に郵送され、データの収集は主にコンピュータ支援の電話インタビューで行われたが、主要アウトカムの評価は対面診療で実施された。 薬剤の投与は製薬企業が推奨する用量に準拠した。cytisine群は、1~3日目に1.5mgのカプセルを2時間ごとに最大1日6回服用し、25日間で1日1~2カプセルまで徐々に減量した。禁煙は5日目に開始した。バレニクリン群は、1~3日目に0.5mgの錠剤を1錠服用し、4~7日目は2錠服用、8日目に禁煙を開始して1mg錠の1日2回服用を84日目(12週)まで継続した。全参加者に、標準的な電話による行動支援を受ける方法が紹介された。 主要アウトカムは6ヵ月間の継続的な禁煙とし、追跡期間7ヵ月の時点で6ヵ月間の継続的禁煙(6ヵ月間の喫煙タバコ本数が5本を超えない)を自己申告した参加者に対し、呼気一酸化炭素濃度測定検査(≦9ppmで禁煙と判定)を行った。非劣性マージンは5%とし、片側検定の有意水準の閾値は0.025とした。6ヵ月禁煙率:11.7% vs.13.3% 1,452例の参加者が登録され、cytisine群に725例、バレニクリン群に727例が割り付けられた。全体の平均年齢(SD)は42.9(12.7)歳で、女性が742例(51.1%)であった。このうち試験を完了したのは1,108例(76.3%)だった。 呼気一酸化炭素濃度測定検査で、6ヵ月間の継続的な禁煙が実証された参加者の割合は、cytisine群が11.7%(85/725例)、バレニクリン群は13.3%(97/727例)であり、cytisine群のバレニクリン群に対する非劣性は確証されなかった(リスク差:-1.62%、片側97.5%信頼区間[CI]:-5.02~∞、非劣性のp=0.03)。 自己申告による6ヵ月間および3ヵ月間の継続的な禁煙の達成について優越性の評価を行ったが、いずれも有意な差はみられなかった。 少なくとも1回の服薬を行った参加者(cytisine群675例、バレニクリン群663例)における自己申告による有害事象は、cytisine群が482例で997件と、バレニクリン群の510例で1,206件と比較して頻度が低かった(発生率比[IRR]:0.88、95%CI:0.81~0.95、p=0.002)。重篤な有害事象は、cytisine群が17例(2.5%)、バレニクリン群は32例(5.0%)で認められた(IRR:0.97、95%CI:0.55~1.73、p=0.92)。 著者は、「非劣性が達成されなかった理由として、cytisineの標準的な用量と投与期間が至適ではない可能性がある」としている。

7.

がん患者の禁煙、継続カウンセリングと補助薬提供が有効/JAMA

 がんの診断を受けた喫煙者の禁煙治療において、継続的な禁煙カウンセリングと禁煙補助薬の無料提供による強化治療は、4週間の短期カウンセリングと禁煙補助薬に関する助言を行う標準治療と比較して、6ヵ月後の禁煙の達成割合が高いことが、米国・マサチューセッツ総合病院のElyse R. Park氏らが実施した「Smokefree Support研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年10月13日号に掲載された。がん患者では、喫煙の継続が有害なアウトカムを引き起こす可能性があるが、米国の多くのがんセンターは、エビデンスに基づく禁煙治療をルーチンの治療に十分に導入できていないという。米国の2つの包括的がんセンターが参加した無作為化試験 本研究は、米国の国立がん研究所(NCI)によって指定された2つの包括的がんセンター(マサチューセッツ総合病院/ダナファーバー/ハーバードがんセンターと、スローン・ケタリング記念がんセンター)が参加した非盲検無作為化試験であり、2013年11月~2017年7月の期間に患者登録が行われ、2018年2月にフォローアップのデータ収集が終了した(米国NCIとPfizerの助成による)。 対象は、30日以内に1本以上の喫煙をした成人で、英語またはスペイン語を話し、過去4回の受診時または3ヵ月以内に、乳房、消化器、泌尿生殖器、婦人科系、頭頸部、肺のがん、またはリンパ腫、悪性黒色腫と診断された患者であった。 被験者は、強化治療または標準治療を受ける群に無作為に割り付けられた。標準治療群は、電話によるカウンセリングと禁煙補助薬に関する助言を、週1回の割合で4回受けた。強化治療群は、電話によるカウンセリングを、週1回で計4回、2週に1回で計4回(2ヵ月)、さらに月1回で計3回受け、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た禁煙補助薬(バレニクリン、bupropion徐放性製剤、ニコチン置換療法)の無料提供を選択できた。禁煙補助薬を選択した参加者は、初回に4週分が提供され、さらに4週分を2回、合計12週分を受け取る選択ができ、これらの薬剤は使用しなくてもよいとされた。 主要アウトカムは、6ヵ月のフォローアップの時点での生化学的に確認された禁煙(7日間点有病率)であった。副次アウトカムには、3ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙などが含まれた。6ヵ月時の禁煙率:34.5% vs.21.5%、患者満足度も高い 303例(平均年齢58.3歳、170例[56.1%]が女性)が登録され、221例(78.1%)が試験を完遂した。強化治療群が153例、標準治療群は150例だった。 全体では、181例(59.7%)が喫煙関連腫瘍で、182例(60.1%)は早期病変であり、31例(10.2%)は重篤な精神疾患(うつ病、双極性障害、統合失調症)に罹患していた。1日喫煙本数中央値は10本(IQR 4~20)、喫煙年数中央値は42年(36~49)であり、214例(72.1%)は起床後30分以内に喫煙し、151例(51.0%)は自宅での喫煙が許されていた。 6ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙率は、強化治療群が34.5%(51/148例)、標準治療群は21.5%(29/135例)であり、13.0%の差が認められ、強化治療群で有意に良好であった(オッズ比[OR]:1.92[95%信頼区間[CI]:1.13~3.27]、p<0.02)。また、3ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙率は、強化治療群が31.1%(46/148例)、標準治療群は20.7%(28/135例)であり、強化治療群で良好だった(群間差:10.3%[95%CI:0.2~20.5]、OR:1.72[95%CI:1.00~2.96]、p=0.048)。 修了したカウンセリングの回数中央値は、強化治療群が8回(IQR:4~11)、標準治療群は4回(3~4)であった。全体のカウンセリングの平均時間は、初回が44.61(SD 15.47)分で、2回目以降は19.9(8.1)分だった。また、6ヵ月時までに禁煙補助薬を使用した患者の割合は、強化治療群が77.0%(97/126例)と、標準治療群の59.1%(68/115例)に比べ高かった(群間差:17.9%[95%CI:6.3~29.5]、OR:2.31[95%CI:1.32~4.04]、p=0.003)。 多変量解析では、6ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙と有意な関連が認められた因子として、強化治療(p=0.04)、臨床的に意義のある禁煙意欲の増加(p=0.03)、自己評価による喫煙の誘惑への抵抗力の強さ(p=0.003)、自宅での喫煙ルール確立の進展度の高さ(p=0.03)、不安の減少度の高さ(p=0.04)が挙げられた。また、6ヵ月時に、「このプログラムは、私にとって必要なもののほとんど、またはすべてを満たした」と答えた患者の割合は、強化治療群が85.0%であり、標準治療群の59.3%に比べ満足度が高かった(群間差:25.5%[95%CI:16.0~35.3]、OR:1.66[95%CI:1.24~2.24]、p=0.001)。 最も頻度の高い有害事象は、悪心(強化治療群13例、標準治療群6例)、皮疹(4例、1例)、しゃっくり(4例、1例)、口腔刺激(4例、0例)、睡眠困難(3例、2例)、鮮明な夢(3例、2例)であった。 著者は、「これらの知見の一般化可能性は明確ではなく、さらなる研究を要する」としている。

8.

「ガスモチン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第5回

第5回 「ガスモチン」の名称の由来は?販売名ガスモチン®錠5mg/2.5mg、ガスモチン®散1%一般名(和名[命名法])モサプリドクエン酸塩水和物(JAN)効能又は効果○慢性胃炎に伴う消化器症状(胸やけ、悪心・嘔吐)○経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助用法及び用量〈慢性胃炎に伴う消化器症状(胸やけ、悪心・嘔吐)〉通常、成人には、モサプリドクエン酸塩として1日15mgを3回に分けて食前または食後に経口投与する。〈経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助〉通常、成人には、経口腸管洗浄剤の投与開始時にモサプリドクエン酸塩として20mgを経口腸管洗浄剤(約180mL)で経口投与する。また、経口腸管洗浄剤投与終了後、モサプリドクエン酸塩として20mgを少量の水で経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由設定されていない※本内容は2020年6月24日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年4月改訂(改訂第24版)医薬品インタビューフォーム「ガスモチン®錠5mg/2.5mg、ガスモチン®散1%」2)大日本住友製薬:製品基本情報

9.

「そろそろ禁煙しないと」と思っているだけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第34回

■外来NGワード「禁煙しなさい!」(これでできたら苦労していない)「喫煙を続けると早死にしますよ!」(ショックを与える言動)「タバコの本数を減らしなさい!」(あいまいな節煙指導)■解説 新型コロナ感染症の重症化には、糖尿病、心不全、呼吸器疾患、透析などに加え、喫煙が強く関係しています。喫煙室は、新型コロナウイルス感染リスクが高い「3密」(密閉、密集、密接)の代表ともいえます。また、テレワークや休校のために、喫煙者が家でタバコを吸う機会が多くなり、家族の受動喫煙のリスクも高まっています。このようなパンデミックは、経済的な負担だけでなく精神的なダメージも大きく、「ストレスで喫煙本数が増えた」という患者さんもおり、普段以上に禁煙のハードルが高くなっているのかもしれません。禁煙治療には、ニコチンパッチ・ニコチンガムなど(ニコチン代替療法)や、禁煙補助薬バレニクリンなどを用いた薬物療法があります。薬物療法に行動療法(行動パターン変更法、環境改善法、代償行動法など)を組み合わせることで、禁煙成功率は高まります。しかし、すぐに禁煙しようとしない無関心期にある患者さんの場合、本数を減らすという選択肢もあります。コクランによると、禁煙する前に喫煙本数を減らすのと、ただちに完全禁煙する場合では、同程度の禁煙成功率であるとのエビデンスが報告されています1)。徐々に減らす場合には、1~2週間後に禁煙するという目標を立てることが大切です。新型コロナ感染症にはACE2受容体が関係するとの報告がありますが、喫煙はACE2受容体の発現を増加させます。喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化に深く関わることを上手に説明して、禁煙に真摯に向き合ってもらえるといいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、タバコの本数はいかがですか?患者今、テレワークになって家にずっといるんですが、子供も家にいるのでタバコが吸いづらくて。医師なるほど。確かに、ご家族にとっては受動喫煙になりますからね。患者そうなんです。妻から、「家の中では吸わないで」と言われていて…。医師どこで吸っておられるんですか?患者外に出て吸っています。近くに喫煙所もないし、マンションのベランダも喫煙禁止なので。医師なるほど。喫煙室も3密ですし、吸える場所がだんだん少なくなってきましたね。患者そうなんですよ。医師ところで、喫煙が新型コロナの重症化に深く関わっているのはご存じですか?患者やっぱり、そうですよね。そろそろ、禁煙しないといけないとは思っているんですが。医師これをきっかけに、禁煙について真剣に考えてもいいかもしれませんね。患者はい。けど、スパッと禁煙する自信がなくて。医師そんな人でも禁煙できる方法がありますよ!(前置きする)患者それはどんな方法ですか?(禁煙の準備についての話に進む)■医師へのお勧めの言葉「コロナをきっかけに、禁煙について真剣に考えてみませんか?」1)Lindson N, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;9:CD013183.2)Berlin I, et al. Nicotine Tob Res. 2020 Apr 03. [Epub ahead of print]3)Vardavas CI, et al. Tob Induc Dis. 2020;18:20.4)Seys LJM, et al. Clin Infect Dis. 2018;66:45-53.5)Brake SJ, et al. J Clin Med. 2020;9:841.

10.

新型タバコにも含まれるニコチンによる免疫機能の低下【新型タバコの基礎知識】第18回

第18回 新型タバコにも含まれるニコチンによる免疫機能の低下Key Pointsニコチンは免疫機能の低下をもたらす加熱式タバコに替えても、ニコチンによる免疫機能の低下は防げない新型コロナウイルス対策の1つとして禁煙を推進してほしい今回の記事は予定を変更して、新型コロナ問題にも関連する「ニコチンによる免疫機能の低下」について解説します。アイコスなどの加熱式タバコにも、紙巻タバコと同様に多くのニコチンが含まれています(第3回記事参照)。ここでは、タバコ研究データの決定版、US Surgeon General Report 2014年号(図)から、喫煙と免疫システムの関連についてお伝えしたいと思います1)。画像を拡大する(出典)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK179276/pdf/Bookshelf_NBK179276.pdf喫煙と免疫システムの関係は?まず簡単に、喫煙と免疫の関係について述べます。免疫システムは、感染や病気から体を守るためのもの、風邪やインフルエンザなどのウイルスからがんなどの疾患に至るまで、あらゆる異物と戦っています。喫煙は免疫機能を低下させ、病気との戦いをうまくいかなくさせていきます。喫煙者は非喫煙者よりも呼吸器感染症に罹りやすくなるのです。これは、タバコに含まれる化学物質が、呼吸器感染症の原因となるウイルスや細菌を正常に攻撃するための、免疫システムの機能を低下させていることが理由の1つです。実際に、喫煙者は非喫煙者に比べて肺炎になりやすく、より重症化しやすくなります。ここまでの話だけなら、ある意味単純で簡単な話(ニコチンだけでなく、タバコが免疫機能を低下させ、感染症への罹患を増やし、肺炎などの重症化リスクを上げること)として理解されるものと思います。しかし、免疫に対するタバコの煙の悪影響があまり理解されていない理由は、免疫系の研究が複雑でややこしく、次のような研究の状況にあるからなのかもしれません。ニコチンは免疫系を抑制し、一方で刺激する?ニコチンは、免疫系を刺激する機序と抑制する機序の両方に作用すると考えられています。尿中マーカーから推測されるニコチンのレベル(すなわち通常の喫煙者と同等のニコチン量)で十分に、リウマチなどの自己免疫系疾患や感染症、がんといった免疫学的に誘導される疾患と関連していると考えられています2)。ニコチンは、ニコチンレセプターを介してその効果を発揮します3)。ニコチンは細胞に直接作用することができる一方、生体内ではそれ自体が強力な免疫調整機能を持つ交感神経系へも直接的に作用します。ニコチンを含んではいるが燃焼・不完全燃焼しきった紙巻タバコの煙由来成分は、まだ燃焼しきっていない紙巻タバコの煙由来成分(酸化作用を多く持つ)と比較して、免疫系への作用がかなり小さいとされています4,5)。禁煙補助薬として使用されるニコチンパッチまたはニコチン部分拮抗薬(たとえば、バレニクリン)は、ヒトでは免疫系への作用が少なく6)、またスヌース(スウェーデンでのみ広く使用されているニコチンを含む低ニトロサミンの無煙タバコ製品)ではニコチンを含むにもかかわらず、紙巻タバコと同等の免疫系への影響はみられません。このような結果の解釈として、紙巻タバコによる免疫への影響は、ニコチンによる影響だけでなく酸化作用等と関連しているものと考えられます7)。こうしたある意味で矛盾した、免疫抑制と免疫促進の両方向への影響がタバコにはあるようです。ニコチンが樹状細胞を抑制するのではなく、樹状細胞を刺激することで免疫系応答によりアテローム性動脈硬化へとつながるとされています8)。一方では、ニコチンは神経細胞のニコチンレセプターを介して作用し、in vivoおよびin vitroの両方で細胞性免疫を抑制するとされています。ニコチンはB細胞における抗体産生を抑制し、T細胞を減らし、T細胞受容体を介したシグナル伝達が減衰したアレルギー様状態を誘導します9,10)。動物実験で、ニコチンによる免疫系への作用により、動物は細菌およびウイルスに感染しやすくなると分かっているのです。前述したとおり、ニコチンは、免疫系を刺激する機序と抑制する機序の両方に作用するため話が理解されにくいようです。免疫促進と抑制のどちらの方向であっても行き過ぎると免疫機能は異常を来すと言えるでしょう。喫煙により、関節リウマチのような自己免疫疾患も、免疫機能の低下により誘導されやすくなるがんも増えると分かっているのです。そのため、「喫煙により免疫異常が引き起こされる」とまとめて書かれるわけです。ただし、今回の新型コロナ問題のように感染症に関して喫煙やニコチンの害を考える場合には、単純に「ニコチンにより免疫機能が低下する」と受け止めると分かりやすいでしょう。新型コロナ時代の禁煙のすゝめ新型コロナウイルスの感染および感染後の重症化を防ぐためにできることの一つとして禁煙があります。タバコ会社は「自宅では加熱式タバコを吸ってください」などとマーケティング活動に熱心だが、それにダマされてはなりません。加熱式タバコに替えてもニコチンは含まれますから、免疫機能の低下は防げないのです。しかし、すべてのタバコを止めれば、ニコチンによる免疫機能の低下から回復できます。その禁煙の効果は数日で得られ、何歳でも禁煙の効用が得られるものと考えられます。日本における新型コロナウイルスの蔓延はまだ始まったばかりであり、これから先に多くの人が新型コロナウイルスに感染する可能性があります。数ヵ月先かもしれないし、1年先かもしれません。日本に2千万人程度存在するすべての喫煙者が禁煙することにより、新型コロナウイルスの流行を収束させる一助としていただきたいと思います。第19回は、「禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)」です。1)US Surgeon General Report 2014.2)Cloez-Tayarani I1, Changeux JP. J Leukoc Biol. 2007 Mar;81:599-606.3)US Surgeon General Report 2010.4)Laan M,et al. J Immunol. 2004 Sep 15;173:4164-70.5)Bauer CM,et al. J Interferon Cytokine Res. 2008 Mar;28:167-79.6)Cahill K,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16:CD006103.7)McMaster SK,et al. Br J Pharmacol. 2008 Feb;153:536-43.8)Aicher A,et al. Circulation. 2003 Feb 4;107:604-11.9)Geng Y,et al. Toxicol Appl Pharmacol. 1995 Dec;135:268-78.10)Geng Y,et al. J Immunol. 1996 Apr 1;156:2384-90.

11.

肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

12.

新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(1)【新型タバコの基礎知識】第12回

第12回 新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(1)Key Points第一に伝えたいことは、タバコを吸っている人が1番のタバコの被害者だということ。タバコ問題を正しく伝え、自主的な禁煙を促すことがポイント。タバコ問題の新たな局面、新型タバコ時代を迎えた日本において、タバコ問題および新型タバコ問題とどう向き合い、従来からのタバコおよび新型タバコを吸っている患者にどう対処していけばよいのか? 皆さんとともに考えていきたいと思っています。まず、どうやったら禁煙支援がうまくいくのか、について簡単に話しておきたいと思います*1。禁煙を成功させる秘訣の1つは、“急がば回れ”のようですが、タバコ問題に関するしっかりとした理解を進めることだと思います。喫煙者がタバコ産業から搾取されている実態や、タバコがいかに残酷な製品かを知ってもらうことが禁煙につながり、喫煙の再開防止に役立ちます。ポスターの掲示やチラシの配布など(図)簡単にできることからでも取り組んでいただければと思います。画像を拡大する科学的根拠に基づき推奨される禁煙方法はさまざまありますが、代表的な方法は(1)禁煙外来を受診して禁煙治療薬の処方を受ける(2)禁煙外来もしくは薬局等で得たニコチンパッチやニコチンガムを使うの2つです。しかし、多くの喫煙者は禁煙を勧める本*2を読むなどして自力で止めることができています。本からタバコ問題に関する情報が得られ、それを知ることにより禁煙することの重要性がよりよく理解できるようになります。*1:なぜ禁煙支援が必要なのかについては日本における健康増進計画、健康日本21等にも理由が明記されており、本稿では触れていません。詳しくはこれらをご参照ください。*2:川井治之『頑張らずにスッパリやめられる禁煙』サンマーク出版、磯村毅『「吸いたい気持ち」がスッキリ消える リセット禁煙』PHP文庫、アレン・カー『禁煙セラピー』KKロングセラーズ社、など紙巻タバコを吸っている人へ伝えたいこと、伝えてほしいこと新型タバコの話題の前に、紙巻タバコを吸っている人全員に伝えたいことがあります。タバコを吸っている人に第一に伝えたいことは、タバコを吸っている人が1番のタバコの被害者だということです。タバコを吸っている人は、当然ですが、悪者ではありません。むしろ、タバコを吸っている魅力的な人が沢山います*3。タバコを吸っているという理由で、頭ごなしに否定するようなことは、もちろん良い結果にはつながりません。タバコを吸っているのは、好奇心が旺盛な証拠かもしれない。もしかしたら、反骨精神のためかもしれない。反骨精神があったり、好奇心旺盛であったりしたが故に、たまたまタバコを吸うという方向に興味が向き、ニコチン依存症になって、やめられなくなった。よくある話です。そんな魅力的な人がずっとタバコを吸っていたら、タバコのせいで寿命がおおよそ5~15 年短くなり、男性であれば50 代後半~60 代という年齢で亡くなってしまう可能性が高くなります。タバコを吸っていると何歳で死ぬのか、これまでの研究のデータから分かっている通りに、若くして亡くなってしまうことが多いのです。たとえば、2012年に、とても魅力的な歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎さんが57歳で亡くなられたことは本当に残念な出来事です。原因は食道がんでした。しかし、それは意外な出来事ではありませんでした。タバコもお酒も豪快だったとのことですから、中村さんが50代後半で亡くなってしまったことは、まさしくデータの通りともいえるのです。魅力的な人が早くに亡くなってしまうのは本当につらいことです。長く生きて活躍し続けてほしい、だからこそ絶対に禁煙してほしいと願っています*4。できるだけ早くにやめた方がいいのですが、何歳からでも禁煙すれば、良い効果があると分かっています。“自主的に”禁煙できるよう促すには?今タバコを吸っている人は、自身の意志により吸っているのでしょうか? ほとんどの人がそうだと思っているかもしれません。しかし、実はニコチン依存症のためにそう思い込まされていると分かっています。タバコには大きな害があります。タバコを吸っていると病気になって早くに死亡する可能性が高くなります。タバコは人をニコチン依存症にして、その他のことから本来得られるはずの幸せを奪っているのです(第9回参照)。このように禁煙してほしいと伝えたとしても、必ずしも禁煙してくれるわけではないと理解しています。「勉強しなさい」と子どもに怒鳴っても、子どもは勉強するようになってくれないのと同じです。どんなことでも自分からやる気にならなければ、何かを成し遂げることはできないのです。タバコを吸い続けるということは、タバコ会社に搾取され続けるということです。タバコ会社の役員は巨額の報酬を得て、自分はタバコを吸わず、社会的に不利な状況な人がタバコを吸うように仕向けている、というのはとても有名な話です。英BBC放送のドキュメンタリーによると、1980年代初め、米国のタバコ会社はある有名人を広告のイメージキャラクターにしました。彼がタバコを吸っていると、タバコ会社の幹部が「何だ、君、タバコなんて吸うのか」と言います。「吸わないんですか」と聞くと、幹部は「冗談じゃない」と首を振り、「“喫煙権”なんざ、ガキや貧乏人、黒人やバカにくれてやるよ」と言い放った後、「1日当たり数千人の子どもを喫煙に引きずり込むことが君の仕事だ。肺がんで死ぬ喫煙者の欠員補充だ。中学生ぐらいを狙え」と語ったというのです。本当にひどい話です。タバコ会社は表向きは子どもにタバコを売らないとしながら、子どもに喫煙させることを仕事にしているのです。なお、タバコ会社の子ども向け喫煙防止キャンペーンは、ほとんど効果がないということが分かっています。ぜひ、タバコ問題について詳しく知って、禁煙の動機にしてほしいと思います。*3:当然ですが、タバコを吸っていない魅力的な人も沢山います。*4:もちろん禁煙するとともに、多量飲酒も控えてほしいです。補足コラム:週末禁煙法と医療者にできる励まし禁煙外来に行ける人には是非行ってほしいのですが、タバコをやめる方法は禁煙外来だけではありません。実際に禁煙した方の約80%は、自力でやめることができた人です。禁煙外来には行けない場合や行けない事情がある場合もあるでしょう。自力で禁煙するというのもいい方法だと思います。次のようなタイミングに禁煙を始めるといいかもしれません。人によって、ちょうどいいタイミングがあると思います。たとえば、金曜の夕方に仕事を終え、土日に家族と一緒に過ごして月曜の朝まで禁煙すれば、ほぼ3 日間はタバコをやめられます。3 日間禁煙すれば、平均的にはニコチンの離脱症状もおさまる頃です。そのままずっとやめてみるよう勧めてみてください。それで、いつの間にかやめられたという人が結構います。タバコを吸いたくなったら、水を飲んだり、ガムをかんだり、走ったり、うまく紛らわせられるといいですね。もちろん、禁煙が1回でうまくいくとは限りません。金曜夜からの禁煙に毎週チャレンジしてもらってもいいと思います。いつか禁煙に成功できると思います。もっと極端なことをいえば、毎日、朝起きたときには、もうすでに7~8時間は禁煙に成功しています。当たり前ですが、人間の体はタバコを吸わなくても大丈夫なようにできています。毎日でも禁煙にチャレンジしてほしいと思っています。毎週でも毎日でも、失敗を恐れず、何度でもチャレンジしてほしいです。1回で禁煙できなかったとしても、それは意志が弱いからではありません。タバコ会社によって意図的に誘導されたニコチン依存の結果なのです。タバコ製品そのものが悪いのであって、喫煙者は被害者です。何度でも禁煙にチャレンジすれば、いつか必ず禁煙できます。いろいろな方法で禁煙すればいいのです。1回や2回禁煙に失敗しても、10 回、20 回とチャレンジして、最終的に禁煙できたら必ずいいことがあると励まし続けていただきたいと思います。第13回は、「新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(2)」です。

13.

統合失調症に対する抗炎症薬の有用性~メタ解析

 統合失調症では、脳の炎症誘発性状態の傾向が重要な役割を担っているとのエビデンスが蓄積されつつある。この傾向を代償するうえで、抗炎症薬は有用である可能性がある。オランダ・Academic Medical CenterのN. Cakici氏らは、統合失調症に対するいくつかの抗炎症作用を有する薬剤の有効性に関するランダム化比較試験(RCT)の最新情報について、メタ解析を実施した。Psychological Medicine誌2019年10月号の報告。 PubMed、Embase、the National Institutes of Health website、the Cochrane Database of Systematic Reviewsより、臨床結果を調査したRCTをシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・症状の重症度に関連する、次の薬剤の有効性を検討した研究は56件であった(アスピリン、ベキサロテン、セレコキシブ、davunetide、デキストロメトルファン、エストロゲン、脂肪酸、メラトニン、ミノサイクリン、N-アセチルシステイン、ピオグリタゾン、ピラセタム、プレグネノロン、スタチン、バレニクリン、withania somnifera extract)。・2つ以上の研究によるメタ解析で有意であった薬剤は以下のとおりであった。 ●アスピリン(平均加重エフェクトサイズ[ES]:0.30、270例、95%信頼区間[CI]:0.06~0.54) ●エストロゲン(ES:0.78、723例、95%CI:0.36~1.19) ●ミノサイクリン(ES:0.40、946例、95%CI:0.11~0.68) ●N-アセチルシステイン(ES:1.00、442例、95%CI:0.60~1.41)・サブグループ解析では、初回エピソード精神病および早期統合失調症の研究において、より肯定的な結果が得られた。・ベキサロテン、セレコキシブ、davunetide、デキストロメトルファン、脂肪酸、プレグネノロン、スタチン、バレニクリンでは有意な効果は認められなかった。 著者らは「すべてではないが、抗炎症作用を有するいくつかの薬剤(アスピリン、エストロゲン、ミノサイクリン、N-アセチルシステイン)において有効性が示唆された。初回エピソード精神病や早期統合失調症患者の症状重症度に関して、より有益な効果が観察された」としている。

14.

虚血性心筋症におけるCABG後の心筋生存能と生存転帰の関連/NEJM

 心筋生存能(viability)は、虚血性心筋症患者における冠動脈バイパス術(CABG)の長期的な利益とは関連しないことが、米国・ニューヨーク医科大学のJulio A. Panza氏らが行ったSTICH試験のサブスタディーで明らかとなった。生存可能な心筋の存在は、治療法にかかわらず左室収縮能の改善をもたらすものの、その改善は長期生存とは関連しないことも示された。研究の成果は、NEJM誌2019年8月22日に掲載された。血行再建術の利益を受ける可能性のある虚血性心筋症患者の同定における、心筋生存能評価の役割に関しては、議論が続いている。さらに、左室機能の改善は血行再建の目標の1つだが、その後の転帰との関連は不明とされる。CABGの生存転帰の改善効果を検証 本研究は、STICH試験(多施設共同非盲検無作為化試験、患者登録期間2002~07年)の参加者1,212例のうち、心筋生存能の評価が行われた患者において、CABGと適切な薬物療法は薬物療法単独に比べ生存転帰が良好との仮説を検証するサブスタディーである(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。 対象は、CABGを受ける予定で、左室駆出率が35%以下の冠動脈疾患患者601例(平均年齢60.7±9.4歳、男性87%)であった。単一光子放射断層撮影(SPECT)またはドブタミン負荷心エコー検査、あるいはこれら両方を用いて、心筋生存能を前向きに評価した。 被験者は、CABG+薬物治療を受ける群(298例)または薬物治療のみを受ける群(303例)に無作為に割り付けられた。左室駆出率は、ベースライン時と4ヵ月のフォローアップ後に318例で測定された。 主要エンドポイントは、全死因死亡とした。フォローアップ期間中央値は10.4年だった。左室駆出率改善は、長期生存に重要な機序ではない 全死因死亡の発生率は、CABG+薬物治療群(182/298例)が、薬物治療単独群(209/303例)よりも低かった(補正ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.60~0.90)。 487例(81%)が心筋生存能を有すると判定され、残りの114例(19%)は心筋生存能がないと判定された。10.4年のフォローアップ期間中に391例(65%)が死亡し、全死因死亡率は、心筋生存能を有する患者(313/487例)とそれがない患者(78/114例)の間に差はなく(HR:0.81、95%CI:0.63~1.03、p=0.09)、関連のある予後因子で補正後も有意差は認めなかった(p=0.64)。心筋生存能の有無と、CABG+薬物治療群の薬物治療単独群を上回る有益な作用に、有意な交互作用はみられなかった(交互作用:p=0.34)。 試験開始から4ヵ月以内に死亡した34例を除く567例のうち、ベースラインと4ヵ月後の双方で左室駆出率の評価を受けた318例(56%)における全死因死亡率は、左室駆出率が改善された患者(105/167例)と改善されなかった患者(91/151例)の間に差はなかった(補正後HR:1.00、95%CI:0.74~1.34)。心血管系の原因による死亡についても同様の結果であった。 心筋生存能を有する患者では、CABG+薬物治療群および薬物治療単独群の双方で左室駆出率が有意に改善されたのに対し、心筋生存能のない患者ではいずれの群も左室駆出率は改善されなかった。また、全死因死亡および心血管系の原因による死亡に関して、心筋生存能の有無と、左室駆出率の改善の有無との間に有意な交互作用は観察されなかった。 著者は「これらの知見は、心筋生存能がCABGによる長期の有益な効果と関連するとの仮説を支持しない」とし、「左室駆出率の改善は、心筋生存能を有する患者で起きる可能性が高く、それは血行再建術を受けた患者に限定されず、薬物または手術による治療を受けた虚血性心筋症患者の長期生存において重要なメカニズムではない」と指摘している。

15.

第16回 発熱の症例・全てのバイタルが異常。何を疑う?-3【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回の症例は、発熱を来した症例です。発熱のため受診される高齢者は少なくありませんが、なかには早期に治療を開始しないと生命にかかわる場合もあります。患者さんDの場合◎経過──3家族の到着後、医師・訪問看護師、施設の職員とあなたは、家族とよく相談して、近隣の救急病院に救急搬送することにしました。その晩、帰宅したあなたは、SIRSと敗血症について調べてみました。「サーズ、サーズっと。あら?SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome;重症急性呼吸器症候群)とは違うのね?」教科書を読むと、細菌毒素などにより様々なサイトカインや血管拡張物質が放出されて末梢血管抵抗が低下し、相対的に循環血液量が減少することで血圧が低下、臓器への低灌流や臓器障害を来すことが書かれていました。臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は重症敗血症(severe sepsis)」と呼ばれ、適切な補液を行っても改善しない血圧低下があること、血圧を維持するためにドパミンやノルアドレナリンなどの昇圧薬を必要とする場合には「敗血症性ショック(septic shock)」といわれること、さらに循環動態を安定化させるための初期治療(Early Goal Directed Therapy; EGDT)について学びました。「すぐに点滴を始めたのは、このためだったのね」敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG2016)と新しい敗血症の定義つい最近、敗血症診療ガイドラインが新しくなったのをご存知ですか?新しいガイドラインでは敗血症の定義は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と変更されました。敗血症の病態について、「感染症による全身性炎症反応症候群」という考え方から、「感染症による臓器障害」に視点が移されたわけです(図2)。本文の「経過3」には「臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は『重症敗血症』と呼れ・・・」とありますが、この以前の重症敗血症が今回の敗血症になりました。また、敗血症性ショックの診断基準は、「適切な輸液にもかかわらず血圧を維持するために循環作動薬を必要とし、『かつ血清乳酸値>2mmol/Lを認める』」となりました。そこで何か感じませんか?そうなんです、敗血症の定義からSIRSがなくなったんです。SIRSは体温・脈拍数・呼吸数・白血球数から診断できますね。新しい敗血症はバイタルサインからその徴候に気付くことができるのでしょうか・・・。敗血症の診断「感染症によって臓器障害が引き起こされた状態」が新しい敗血症の定義でしたね。そこで、どうしたら臓器障害がわかるんだろうという疑問が出てきます。臓器障害は「SOFA(sequential organ failure assessment)スコア」によって判断します(表4)。感染症があり、SOFAスコアが以前と比べて2点以上上昇していた場合に臓器障害があると判断して、敗血症と診断します。この表をみるとすぐに点数を付けるのは難しいな・・・と思いますよね。そこで、救急外来などではqSOFA(quick SOFA)を使用します(表5)。意識の変容・呼吸数(≧22回/分)・収縮期血圧(≦100mmHg)の3項目のうち2項目以上を満たすときに敗血症を疑います。ガイドラインが新しくなったといっても、やはりバイタルサインによって敗血症かどうか疑うことができますね。敗血症が疑われたら、その次にSOFAスコアを評価して、敗血症と診断するわけです。具体的な診断の流れを図に示します(図3)。スライドを拡大するスライドを拡大するEGDT(Early Goal Directed Therapy)についてEGDTは、中心静脈圧・平均動脈圧などを指標にしながら、補液・循環作動薬などを使用して、尿量・血中乳酸値などを早期に改善しようとする治療法ですが、近年の臨床試験ではEGDTを遵守しても有益性は見いだせなかったという結果が得られました。ただ、敗血症性ショックに対する初期治療の一つは補液であることにかわりはありません。時の流れでガイドラインが変わっても患者さんを診るときにバイタルサインが重要なことは変わっていないようですね。エピローグ救急搬送先の病院で細菌学的検査、抗菌薬の投与、およびドブタミン、ノルアドレナリンによる治療が行われました。敗血症性ショックでした。約3週間が経ち、退院後にあなたが訪問すると、その91歳の女性は以前と同じようにベッドの上に寝ていました。以前と同じように寝たきりの状態で、以前と同じように職員の介助で何とか食事をしていました。本人の家族(長男)に新しく処方された薬について説明する機会がありました。ベッドサイドで長男と話をしていると、普段無表情な本人が、長男が来ているところを見て少しニコッと微笑んだように見えました。五感を駆使して、患者さんの状態を感じとる今回のポイントは、敗血症とSIRSの概念を知り、急を要する発熱を見極めることができるようになることでした。それともう1つ、今回のあなたは五感を駆使して患者さんの状態を知ろうとしました。ぐったりしているところや呼吸の状態を"視て"、呼吸が速い様子(息づかい)を耳で"聴き"ながら、手や手首を"触れて"体温や脈の状態を確認しました(味覚と嗅覚が入っていないなんて言わないでくださいね)。緊急度を素早く察知する手段のひとつですから、バイタルサインと併せて患者さんを注意して観察するとよいと思います。

16.

糖尿病患者への禁煙指導/糖尿病学の進歩

 喫煙は、血糖コントロール悪化や糖尿病発症リスク増加、動脈硬化進展、がんリスク増加などの悪影響を及ぼす。禁煙によりこれらのリスクは低下し、死亡リスクも減少することから禁煙指導は重要である。3月1~2日に開催された第53回糖尿病学の進歩において、聖路加国際病院内分泌代謝科の能登 洋氏が「喫煙と糖尿病合併症」と題して講演し、喫煙と糖尿病発症・糖尿病合併症・がんとの関連、禁煙指導について紹介した。タバコ1日2箱で糖尿病発症リスクが1.5倍 糖尿病患者の喫煙率は、日本の成人における喫煙率とほぼ同様で、男性が31.9%、女性が8.0%と報告されている。男女ともに30代がピークだという。喫煙は、血糖コントロール悪化、糖尿病発症リスク増加、HDL-コレステロール低下、動脈硬化進展、呼吸機能悪化、がんリスク増加、死亡リスク増加といった悪影響を及ぼす。喫煙による糖尿病発症リスクは用量依存的に増加し、国内の研究では、1日当たり1箱吸う人は1.3倍、2箱吸う人は1.5倍、発症リスクが増加すると報告されている。また、受動喫煙でも同様の影響があり、受動喫煙による糖尿病発症リスクは、国内の研究ではオッズ比が1.8と報告されている。 喫煙による糖尿病発症機序としては、コルチゾールなどのインスリン抵抗性を増やすホルモンの増加や、不健康な生活習慣(過食や運動不足)で内臓脂肪の蓄積を引き起こしインスリン抵抗性が惹起されることが想定されている。さらに、喫煙者は飲酒する傾向があるため、それも発症に関わると考えられる。また喫煙は、脂肪組織から分泌されるサイトカインやリポプロテインリパーゼに影響を与え、糖代謝や脂質代謝にも直接悪影響を与える。さらに、ニコチンそのものがインスリン抵抗性を惹起することが想定されている。禁煙後の糖尿病発症リスクの変化、体重増加の影響は? では、禁煙した場合、糖尿病発症リスクはどう変化するのだろうか。禁煙後半年から数年は、ニコチンによる食欲抑制効果の解除、味覚・嗅覚の改善、胃粘膜微小循環系血行障害の改善により体重が増加することが多く、また数年後には喫煙時の体重に減少することが多い。体重増加は糖尿病のリスクファクターであるため、禁煙直後の体重増加による糖尿病リスクへの影響が考えられる。実際に禁煙後の糖尿病発症リスクを検討した国内外の疫学研究では、禁煙後5年間は、糖尿病発症リスクが1.5倍程度まで上昇するが、10年以上経過するとほぼ同レベルまで戻ることが報告されている。さらに、禁煙後の体重変動と糖尿病発症リスクを検討した研究では、禁煙後に体重が増加しなかった人は糖尿病発症リスクが減少し続け、体重が10kg以上増えた人は5年後に1.8倍となるも、その後リスクが減少して15~30年で非喫煙者と同レベルにまで下がること、また禁煙後の体重増加にかかわらず死亡率が大幅に減少することが示されている。能登氏は「禁煙して数年間は糖尿病が増加するリスクはあるが体重を管理すればそのリスクも減少し、いずれにしても死亡リスクが減少することから、タバコをやめるのに越したことはない。禁煙するように指導することは重要であり、禁煙直後は食事療法や運動療法で体重が増えないように療養指導するべき」と述べた。 喫煙と糖尿病合併症との関連をみると、とくに糖尿病大血管症リスクとの関連が大きい。また、糖尿病によってがんリスクが増加することが報告されているが、喫煙によって喫煙関連がん(膀胱、食道、喉頭、肺、口腔、膵臓がん)の死亡リスクが4倍、なかでも肺がんでは約12倍に増加するため、糖尿病患者による喫煙でがんリスクは一層高まる。また、糖尿病合併症である歯周病、骨折についても喫煙と関連が示されている。禁煙は「一気に」「徐々に」どちらが有効か 禁煙のタイミングについては、喫煙歴が長期間であったとしても、いつやめても遅くはない。禁煙半年後には、循環・呼吸機能の改善、心疾患リスクが減少し、5年後には膀胱がん、食道がん、糖尿病の発症リスクが減少することが示されている。 では、どのような禁煙方法が有効なのだろうか。コクランレビューでは、断煙法(バッサリやめる)と漸減法(徐々にやめる)の成功率に有意差はなかった。短期間(6ヵ月)に限れば断煙法の禁煙継続率が高いという報告があるが、個人差があるため、まず患者さんの希望に合わせた方法を勧め、うまくいかなければ別法を勧めるというのがよいという。代替法としてはニコチンガムやパッチなどがあるが、近年発売された電子タバコ*を用いる方法も出てきている。最近、禁煙支援で電子タバコを使用した場合、ニコチン代替法より禁煙成功率が1.8倍高かったという研究結果が報告された。能登氏は、「煙が出るタバコの代わりに電子タバコを吸い続けるというのは勧めないが、禁煙するときに電子タバコを用いた代替法もいいかもしれない」と評価した。 能登氏は最後に、「糖尿病とがんに関する日本糖尿病学会と日本癌学会による医師・医療者への提言」から、日本人では糖尿病は大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスク増加と関連があること、糖尿病やがんリスク減少のために禁煙を推奨すべきであること、糖尿病患者には喫煙の有無にかかわらず、がん検診を受けるように勧めることが重要であることを説明した。がん検診については、聖路加国際病院では患者さんの目につく血圧自動測定器の前に「糖尿病の方へ:がん検診のお勧め」というポスターを貼っていることを紹介し、講演を終えた。*「電子タバコ」は「加熱式タバコ」(iQOS、glo、Ploom TECHなど)とは異なる

17.

電子タバコは禁煙に役に立つか?(解説:桑島巖氏)-1003

 最近は、タバコの代わりに電子タバコを使っているという人が多くなっている。禁煙の手法として、ニコチンの量を徐々に減らす「ニコチン代替療法」と電子タバコで禁煙を目指すという2つの方法がある。 本研究はどちらの方法が1年後の禁煙率が高いかをランダム化試験で比較した論文である。 このコメントの読者である多くの医療関係者は非喫煙者が多いと思われるので、少し電子タバコについての予備知識が必要であろう。 普通のタバコは、煙を吸うのに対して、電子タバコは水蒸気を吸い込むという点が大きな違いである。したがって普通のタバコは、タバコの葉を燃やすことで生じる臭いや有害物質を発生する。 一方電子タバコはタバコの葉を使用せずに、e-リキッドといわれる液体を電力で熱することで生じる水蒸気を吸い込み、その臭いを自分の好みに合わせて楽しむことができるのが売りである。 電子タバコといってもすべてが完全にニコチン・フリーではなく、少量のニコチンを含有しているものもあり、本研究で用いられた電子タバコには18mg/mLのニコチンが含まれている。 一方ニコチン代替療法には、パッチ、ガム、スプレーなどのほか、わが国ではバレニクリン製剤(商品名:チャンピックス)という錠剤も使用されている。 さて、本研究は886名の喫煙者をニコチン代替療法群と電子タバコ群にランダマイズして、試験開始時、開始4週、52週の時点での喫煙状況とタバコの有害物質の1つである一酸化炭素の排泄量を測定した。 1次エンドポイントである1年時の禁煙率は、電子タバコ群が18%で、ニコチン代替療法群の9.9%に比して有意に高かった。この結果から禁煙には電子タバコが有用であるというのが本論文の結論であるが、しかし1年時の禁煙者といっても、電子タバコを続けていた人が80%もいたということは、はたして禁煙に成功したと言えるであろうか。電子タバコもニコチンは含まれており、完全に無害とは言えないのである。喫煙者はニコチンの血中濃度が一定に達して、主観的に満足感が得られるまで喫煙する傾向があるとされる。 一方ニコチン代替療法群で、1年後にニコチン代替療法を継続していたのは9%にすぎない。ということはある意味では禁煙できた人が多いという解釈もできるのである。 さらに喉や口腔の炎症などの副作用は電子タバコ群のほうが高率に認められたというから、電子タバコ自体が咽頭に対して刺激性を有しているのであろう。 またとくに注目すべきは、本研究の両群とも被検者の約75%が過去にニコチン代替療法を経験した症例である。つまり何度も禁煙療法を繰り返すリピーターであることから、本当に禁煙が達成できたかどうかはもう少し長いスパンで観察しなければならないのであろう。 いずれにしろ電子タバコの安全性は確立されていない。 最後に日本呼吸器学会から、下記のような声明を紹介する。1. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は健康に悪影響をもたらす可能性がある。2. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動喫煙による健康被害が生じる可能性がある。従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない。

18.

禁煙開始4週前からのニコチンパッチ、長期的効果は?/BMJ

 英国では、喫煙を中止した日以降は禁煙を補助する薬物療法が推奨されるが、喫煙中止日前の薬物療法(preloading)の長期的なベネフィットのエビデンスは明確ではないという。英国・オックスフォード大学のPaul Aveyard氏らは、ルーチンの診療における禁煙開始前のニコチン投与について検討した。その結果、明らかな長期的有効性は認めなかったものの、ニコチン前投与により禁煙開始後のバレニクリンの使用が減少し、これによってニコチンの効果がマスクされた可能性があると報告した。研究の成果は、BMJ誌2018年6月13日号に掲載された。禁煙前4週投与の長期的有効性を評価 研究グループ(Preloading Investigators)は、長期的な禁煙の達成における禁煙開始前4週間のニコチンパッチ使用の有効性を評価する非盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成による)。 対象は、ニコチン依存がみられる毎日喫煙者(daily smoker)であった。被験者は、前投与群または対照群にランダムに割り付けられた。前投与群は喫煙を中止する前に21mgニコチンパッチ(1日1回)を4週間使用し、対照群は通常治療と行動支援を受けた。 主要アウトカムは、6ヵ月時の生化学的に確定された禁煙とし、副次アウトカムは、4週および12ヵ月時の禁煙であった。 2012年8月~2015年3月の期間に、イングランドのプライマリケア施設および禁煙クリニックに1,792例が登録され、前投与群に899例、対照群には893例が割り付けられた。バレニクリン使用で補正すると有意な効果 ベースラインの全体の平均年齢は48.9(SD 13.4)歳、男性が52.6%であった。既製タバコの使用者が68.2%、手巻きタバコの使用者が31.0%であり、平均1日喫煙本数は18.9(SD 9.3)本、過去6ヵ月以内に禁煙支援を受けた者は32.5%であった。 6ヵ月時の生化学的に確定された禁煙の達成率は、前投与群が17.5%(157/899例)、対照群は14.4%(129/893例)であった(群間差:3.0%、95%信頼区間[CI]:-0.4~6.4%、オッズ比[OR]:1.25、95%CI:0.97~1.62、p=0.08)。 両群間で、禁煙開始後の治療における禁煙補助薬バレニクリンの使用のバランスがとれておらず、対照群で多く用いられていた(22.1 vs.29.5%)。事前に計画された補正を行うと、ニコチン前投与の効果のORは1.34(95%CI:1.03~1.73、p=0.03、群間差:3.8%、95%CI:0.4~7.2)となり、有意な差が認められた。 4週時におけるバレニクリン使用で未補正の禁煙効果のORは1.21(95%CI:1.00~1.48)、群間差は4.3%(0.0~8.7%、p=0.05)であり、補正後のORは1.32(1.08~1.62、p=0.007)であった。また、12ヵ月時の未補正のORは1.28(0.97~1.69)、群間差は2.7%(-0.4~5.8、p=0.09)であり、補正後のORは1.36(1.02~1.80、p=0.04)であった。 前投与群の5.9%が不耐のためニコチンパッチを中止した。消化器症状(主に悪心)は、前投与群のほうに高い頻度(4.0%)で認められた。重篤な有害事象は前投与群が8例、対照群も8例にみられた(OR:0.99、95%CI:0.36~2.75)。 著者は、「21mgニコチンパッチによるニコチンの禁煙開始前4週投与は、長期の禁煙において期待された効果を発揮し、安全で耐用可能と考えられるが、最も効果の高い禁煙補助薬であるバレニクリンの使用を抑制する可能性がある」とし、「この非意図的な結果を克服できれば、前投与は長期的な禁煙達成の増加に、価値のある効果をもたらす可能性がある」と指摘している。

19.

ORBITA試験:冷静な判断を求む(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)-800

 COURAGE試験において安定狭心症に対するPCIは、薬物療法に比してMIや死亡を減らすことができないことが示され、現在では症状の改善を主目的として施行されている。そこで狭心症状という主観的なアウトカムが、PCIのプラセボ効果による修飾を受けているのではないかとの設問を立て、PCIのプラセボ手術(sham operationといった方が一般的か)を用いてこれを検証したところ、PCIは症状の改善すら薬物療法に対しての優位性を示せなかったというのが本論文の結論であった。倫理的な問題は後述するとして、手法としては完全であった点では評価されなければならないと思われる。 しかし、一方で懸念されるのは、この結果が拡大解釈されることである。Lancet同号のeditorialでは「安定狭心症に対するPCIの息の根をとめるか?」という激しいタイトルで、「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのguidelineでPCIを格下げすべきである」と感情的とさえいえる論評が加えられているが、本試験の筆頭著者であるAl-Lameeさえもこれには異論を唱えている。注意しなければならないのは以下の2点であると考える。 まず挙げられなければならない点は、RCTの常としてリアルワールドを反映していないということである。本論文ではmedical therapyとして週1~3の電話相談、しかも家庭血圧と家庭心拍を密にモニターしているが、実臨床では実現不可能であろう。この点は筆者も十分理解しており、「労作性狭心症に対するPCIを絶対にするなという意味ではない。すべての患者が何剤もの抗狭心症薬を永遠に内服することをよしとするわけではない」、「リスクの低いPCI手技をして薬剤を減らすことを望む」患者にはPCIが治療選択となることを述べている点は看過されてはならないと思う。 もう1点は、重症虚血の症例にまでこの結果を適用してはならないということである。COURAGE試験のサブ解析でも、SPECT上のischemic burdenを5%以上減じればMIや死亡を減らすことができることと、PCI群でischemic burdenの有意な減少が得られたことを報告している。先行研究において、血行再建によってもたらされる利益が薬物療法を上回る閾値は10%以上の重症虚血であったこと、さらにLMT含む重症虚血が除外されているCOURAGE試験での治療前値が8%台であったことを考慮すると、COURAGE試験の結果を重症虚血に安易に拡大解釈することは危険なのは明らかであろう。同様に重症虚血を除外している本試験の結果は、もちろん重症虚血例に対して拡大解釈することはできない。現に本試験では、約1/3の症例でFFR/iFRで虚血が証明されていない。ちなみに本試験でも、FFR/iFRやドブタミン負荷心エコーではPCI群で虚血の改善をみている。すなわち現時点で“軽症の虚血においては”、血行再建は生命予後にも症状の緩和にも明らかな優位性を見いだせないということ以上の解釈はできず、すべての安定狭心症に対して血行再建を行うことが無益だという解釈は誤りである。 さらに、論文評として議論しておかなければならないのが、プラセボ手術の問題であろう。このような研究法(観血的な偽治療)が初めて試されたのは、腎動脈焼灼術による血圧変化を検討したrandomized studyにおいてだった。この時は、シースは挿入するがそれ以降の積極的な操作は何も行わないというものだったのだが、賛否両論が沸き起こったのを記憶している。今回はpressure wireを挿入するなど本格的手技に準ずる手技が行われており、しかも4例で合併症が、3例で大出血がみられたのである。安全性に問題のあるプラセボ治療は、プラセボ治療とはいえない。関係者の再考を促したいとともに、このような対照の取り方が、どのような目的であれ、無制限に拡大していくことを憂慮するものである。 ただし、本試験から虚心に学ぶべきことも多い。当然だが術前の虚血評価と薬物の最適化は重要であること、ましてangiographicにも中等度狭窄に対してのPCIは厳に非難されるべきものであること(実際、業績が欲しくて不必要なPCIが行われているケースが多々みられることは、残念ながら事実)、PCIのリスクがあまりに高い軽症の虚血の患者には厳重な薬物療法の選択肢も十分ありうることなどである。一方で、重症虚血の患者に対してひとたびPCIによる血行再建の選択をした際には、虚血を残すことなく解除することが絶対の前提であることは確認しておきたい。そのためにはCTOを含めた複雑病変に対する治療技術、angioguideのみでは見落としがちな病変をimaging device、FFR/iFRを駆使して完全血行再建を行うstrategyの構築が重要で、これが不可能なのであればCABGを選択して完全血行再建を目指すべきである。

20.

PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT/Lancet

 至適薬物治療を行った重度一枝狭窄の安定狭心症患者に対し、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施しても、運動時間の改善は認められないことが、無作為化プラセボ対照二重盲検試験で初めて明らかになった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRasha Al-Lamee氏らが、患者200例を対象に行った「ORBITA」試験の結果で、Lancet誌オンライン版2017年11月2日号で発表した。重度一枝狭窄の患者に6週間の至適薬物治療 研究グループは、70%以上の重度一枝狭窄が認められる安定狭心症で、虚血症状のある患者を対象に試験を行った。まず全登録被験者(230例)に対し、6週間の至適薬物治療を行った(2014年1月6日~2017年8月11日)。その後、心肺運動負荷試験、症状に関する質問票による評価、ドブタミン負荷心エコー法を実施し、無作為に被験者200例を2群に分け、一方にはPCIを(105例)、もう一方にはプラセボ手術を行った(95例)。 術後6週間後に、無作為化前に行った方法で再度評価を行った。主要エンドポイントは、運動時間増加量の群間差で、無作為化を受けた全被験者について解析を行った。PCI群で運動時間に改善みられず 被験者200例の、狭窄部位の平均狭窄率は84.4%(SD 10.2)、平均冠血流予備量比(FFR)は0.69(同0.16)、平均瞬時血流予備量比は0.76(同0.22)だった。 術後6週間の運動時間増加量について、両群で有意差は認められなかった(PCI群-プラセボ手術群:16.6秒、95%信頼区間:-8.9~42.0、p=0.200)。 試験期間中に死亡した被験者はいなかった。また、重篤な有害イベントとして、PCIを要したプレッシャワイヤ関連合併症(プラセボ手術群で4件)、大量出血5件(PCI群2件、プラセボ手術群3件)の発生が報告された。 なお今回の試験について著者は、「薬物療法でスタンダードになっているように、侵襲手技の有効性についてもプラセボ対照の評価は可能である」と述べている。

検索結果 合計:50件 表示位置:1 - 20